認知症の症状が始まると、今まで優しかった親御さんが別人のように感じられたり、何度も同じことを聞かれてイライラしてしまったりと、ご家族の心は限界まで削られがちです。
どうして分かってくれないの?
さっき言ったばかりなのに……。
そう思ってしまうのも、あなたが親御さんを大切に思っている証拠です。でも、これだけは覚えておいてください。認知症の方の言動には、必ず「本人なりの理由」があります。この連載の第3回は、ご家族の心を少しだけ軽くするための、認知症ケアの「考え方のコツ」をお話しします。
1. 「理解してもらおう」としない勇気
認知症ケアで最もご家族を苦しめるのは、「正しいことを伝えて理解してもらおう」とする努力です。けれど認知症が進むと、記憶の仕組みそのものが変化しています。
- 正論は逆効果
「さっき食べたでしょ」と事実を指摘しても、本人の中では「まだ食べていない」が事実。否定されたと感じると、強い不安や恐怖・怒りが生まれ、攻撃的な態度につながります。 - 「合わせる」が正解
事実と違っても、まずは「そうだったね」「お腹が空いたんだね」と、感情やニーズだけを汲み取って受け止める。これだけで、本人の不安は驙くほど静まります。
2. 「困った行動」は、SOSのサイン
「何度も同じことを聞く」「怒りっぽい」「トイレの失敗が増えた」……。これらは、あなたを困らせるためにしている行動ではありません。その裏には、こんなサインが隠れています。
- 「安心したい」というサイン/何度も聞くのは、不安でたまらないから。繰り返すことで自分の世界を確認しようとしています。
- 「うまく伝えられない」というサイン/怒りっぽくなるのは、言葉が出てこないもどかしさや、否定されているのではという焦りから来ることが多いのです。
「何を言いたいんだろう?」「何が不安なんだろう?」と一歩引いて観察する視点を持つだけで、あなたのイライラは少しずつ減っていきます。
3. 医療と連携して「原因」を探る
認知症の症状だと思っていたものが、実は「他の身体的な不調」が原因であることも少なくありません。
- 痛みが隠れている場合/歯が痛い、便秘が辛いといった不快感が、症状を悪化させ、不穏な態度を引き起こしていることがあります。
- 薬の副作用/複数の薬を服用している場合、その組み合わせが脳に影響を与えているケースもあります。
そんなときこそ「かかりつけ医」や「もの忘れ専門外来」の出番です。一度、身体的な不調がないかを医学的にチェックすることで、今の介護の「なぜ?」が解けるかもしれません。
4. あなたが倒れては、元も子もありません
本人のこだわりを尊重しながら、不安を上手に受け流す——それは、プロのテクニックです。抱え込まず、頼ってください。
認知症ケアで大切なのは、「介護者自身の心の安定」です。ご家族だけで抱え込まないでください。
- お互いに距離を置く時間を持つ/施設を利用して物理的な距離を作れば、本人も家族も冷静さを取り戻せます。
- 相談相手を持つ/ケアマネジャーや地域の認知症相談窓口に、今の悩みを話す。話すだけでも気持ちはずいぶん楽になり、一緒に解決策を考えてくれます。
認知症ケアに「正解」はありません。昨日うまくいった対応が、今日はうまくいかないこともあります。それでもいいのです。「今日はちょっと怒っちゃったな」と反省したら、明日は少し深呼吸してから接してみる。そんな繰り返しで十分です。私たちは、その「頑張りすぎない毎日」を、医療と福祉の力で全力で支えます。「最近、少し対応が難しくなってきたな」と感じたら、いつでも私たちの窓口を頼ってください。
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